キーケース

今日、大切なものを手放す。


ずっと昔、社会人になった時に買った紺色のキーケースだ。わたしが家を離れてからは父が使っていたらしい。
「らしい」というのは、先月帰天した父の遺品の中から数個のカギがついた状態で出てきたからだ。
わたしのお気に入りを何年も使っていてくれた父の思いが古びた皮から伝わってくる。
その柔らかさは、父の手の温もりのよう。
どんなものでも修繕や修理を重ねて使う父の心が、握ったキーケースから伝わってくる。
・・・よし! 父の心は、わたしの心に入った。


今日、新しいキーケースを買った。


古いものは留め具の部分が緩んで、鍵が落ちるようになったから。
悲しいけど“さようなら”。
不要な愛着は棄てて、肝心なものだけを吸い込んで、わたし、前進する!
だから天国から応援、お願いね!