ルルドで起こったこと ⑤

更衣室を出て、建物を後にしたわたしの心には感謝と感動がこみ上げてきて、しばらく涙が止まらなかった。
他のメンバーも静かな感動に包まれているようだった。


とその時、わたしの手に杖がないことに気づいた。あ!! 慌てて水浴場に駆け戻ると(そう、その時はもう走っていた)
水浴場の入り口で、次の団体のガイドさんが立ちはだかった。「何?どうした?」
わたしが「杖をなかに忘れたんです」と言うと、笑いながら「よかったじゃない!」と喜びをともにしてくれた。
そう、ギックリ腰はもう治っていたのだ。父の遺品だったので、一応杖を持ち帰ったが、その後、腰が痛むことはなく、
それどころか、その日一日、ルルドの街を見学するために一万五千歩をみんなと歩けたのだ。


ツアー中、みんなは事あるごとにわたしの腰を案じてくださったが、毎日6時間以上のバス移動でも、
大寒波のなかでの遺跡見学でも、腰の痛みは出なかった。どうやら、ルルドの水浴ですっかり治ったようだ。
もうひとつの持病も治っているかも・・・。
同じく初めて水浴をしたKさんは「実はあの後から、まったく症状がでなくなったの!」と密かに打ち明けてくださった。


もしかすると「病の癒し」の奇跡は、ルルドでは日常茶飯なのかもしれない。
なぜなら、「寒いから風邪を引くのでは?」「身体を冷やすから悪化するのでは?」「人前で水浴するなんて」「大勢の人が入った水に浸かるなんて」というこの世の判断を超えて、マリアさまのご保護にすべてを委ねて主の癒しを信じ祈る人に、神さまはあわれみを注がずにはおられないから。



おそらくわたしたちがルルドで受けた最も大きな恵みは、身体に表れた変化よりも「死と復活」の体験だったと思う。
ツアーメンバーのひとり、Wさんは「(水浴は)まさに臨死体験だった」と表現された。ピッタリの感じがする。自分の持ちものをすべて手放し、身一つでマリアさまに祈り、天使たちの祈りにサポートされながら両手を引かれて水(死)に浸かる。そして、自分の力で立つのではなく、引き上げていただく。まるで洗礼のようだ。


あらためて、洗礼によって受ける恵みの大きさを思い巡らした。これまでの罪がすべて赦され、新しい命に満たされる。古い自分からの脱出は、出エジプトのを脱出をはるかに超える。「消えることのない洗礼の恵みを帯びて新たな人になって生きる幸せ」と「この世を旅立って天国に入ることができる幸せ」をしっかりと噛みしめたいと思う。