ルルドで起こったこと ④


水浴場のカーテンが開き、中へ入るように促された。
からだを覆っていた青いマントに代わる、白いシーツをさらしのように巻いてもらう。一瞬の出来事だった。
その布が、前の人の水浴で冷たく濡れていたため、心臓がとまりそうになり声を上げてしまった。


ガイドさんから「水浴場のボランティアの人たちは上級ボランティアなので、すべて安心しておまかせしていれば大丈夫。信頼して。」と
言われていた。どうやら水浴場には三人の天使がいて、手を引いたり祈ったりしていただいたが、そのお三方のお顔もお姿もまったく目に入らなかったから不思議だ。天使役に徹しておられる証拠かもしれない。


ひとりの天使が「マダム、この石段に一歩目を」と、たっぷりと水の入った大きな石棺のなかに入るよう促した。
そして左右からふたりの天使がわたしの両手をとって、石棺のなかを勢いよく五、六歩進ませた。
石棺の真正面にあるマリア像に近づいたわたしは、自分を委ねる気もちでマリアさまに接吻した。
ふたりの天使は満足そうな気配で何か言葉を発した。


そのとたん、水の中に・・・・・!!
冷たさで息が止まった。心臓も止まるかと思う数秒の間、三人の天使の祈る声が聞こえ、わたしは意識も遠くへ離れるような感じを覚えた。
どんな体勢でどのくらいの間水に浸かっていたのか記憶にない。



気がつくと、ベビーバスから引き上げられる赤ん坊のようにさっと引き揚げられ、また青いマントで覆われて隣りの更衣室へ。
その時一瞬立ち止まり、入口の天使に「ありがとうございます」とお礼を言った。


水浴のあと、水気を拭かないように注意されたので、濡れたまま何枚も衣服を重ねた。
ルルドの水は硬水なので、すぐ乾くらしい。そして、身体がポカポカしてくるのは、冷たい水に短時間入ることによって身体の中から反射的に熱が生み出されからであろう。順番を待っている人を思い、急いで着替えを済ませた。