ルルドで起こったこと ③

 ポー側に沿って西へ進むと、左手に水浴場が並んでいる。
オフシーズンの朝、ひと気はまばらだ。わたしたちが一番乗りではなく、先に数人の人が並んでいた。
開場の10時まで、日陰のベンチで順番待ちをする。わが巡礼団の殿方も、少し離れた男性の入場口で寒そうに待っている。


 そこへ、ルルドに滞在しておられる信徒宣教者養成担当の日本人信徒Kさんが来られ、水浴にあずかるための心構えをわたしたちに説いてくださった。「ルルドの水を受けることを単なる“清め”と思わないでください。洗礼の恵みを想い起こしてください。」
 
 ようやく中から扉が開けられ、まず一番乗りの5人ほどが招きいれられた。
わたしはこの時になって、ルルドの水浴について自分がまったく何も情報を持っていないことに気づいた。
ふつうこういう巡礼地を訪れるときは何か読んでくるとか・・・わたしらしいな・・・新鮮でいいかもしれない。
ただ、回心の恵みだけを願って待つことにした。

 数分経つと扉が開き、わたしも中に招かれた。廊下の前に並ぶ分厚いカーテンの中に導かれると、身につけているものを壁の杭に引っかけることになった。何人ものひとが貴重品をすべて身から離して隣室へ行くということは、ルルドならではの体験かもしれない。これも一つの奇跡のように感じる。

 
 ボランティアの婦人が背中からかけてくれた青い大きなマントの中は、産まれたままの姿だ。準備のできた4人が脱衣所の椅子に座って順番を待つ。
カーテンの奥から水浴の音が聞こえる。どこの国から来られた人か、今、水浴している女性のすすり泣く声が聞こえてきた。
その泣き声につられて、わたしも涙があふれてきた。この女性は、これまでどれほど苦しんだことだろう・・・どれほど、今日という日を待ち望んだことだろう・・・神さま、彼女を癒してください!!

 
 わたしは母の胎のなかにいる赤ん坊のように、青いマントの中で手足を縮めて祈った。今、ここにいるのは、神さまと空の手のわたしだけ。
近年味わったことがないほど、潜心が深まる。ここはもう天国の入り口のようだ。もうすぐ、たったひとりで何も持たずに、一枚のカーテンの向こうへ入るのだ。順番を待つ間、わたしは心の中で三つの望みを静かに唱えた。