Ave crux, spes unica! (めでたし十字架よ!唯一の希望よ!)


 タイトルのラテン語は、晩年のエディット・シュタインが最も愛したことばの一つである。
フッサールの高弟でありユダヤ教徒であった彼女は、真理の探究に励んでいた。

 
ある時、夫に先立たれた若い未亡人に会ったエディットは、キリスト教徒である彼女の穏やかな態度に衝撃を受ける。何年か後に、その時のことをこう告白している。
「これがわたしの最初の十字架との、そしてそれを耐える者へ与えられた神聖な強さとの出会いでした。わたしははじめて手の届く範囲に教会を見、死の痛みの克服に苦しんでいる救い主の誕生を見ました。この瞬間にわたしの不信は砕かれ、キリストの光が目前に輝きました。十字架の神秘のうちにあるキリストです。」 
“超越した平和”を体験するためには、キリストの十字架の力と一致することによってのみ可能であることを目の当たりにしたようだ。

 

 その後、彼女は聖イグナチオの霊操に関する本を読んだが、間もなく自分にはこの霊操が不可能であることに気づいた。
 そしてある日、彼女は友人宅でアビラの聖テレサの自叙伝に出会う。一晩中読みふけって朝を迎えた彼女は「これこそ真理だわ!」と叫んだ。
そして、真理を求め続けた彼女の旅は、カトリックへの改宗→カルメル会入会→アウシュビッツガス室→天国へと続く。


 1998年10月11日に列聖。修道名は十字架の聖テレジア・ベネディクタ。典礼上の記念日は8月9日だったと思う。
彼女のご絵はお世辞にも可愛いものとは言えないので、親しみをこめて「魔除けのご絵」などと友人たちとふざけたこともあるが、
真理を深く知った人の、まったく揺るがない静けさを感じる。十字架を通してのみ希望できる喜びが、美しく滲み出ているようでもある。

 「わたしの魂に穏やかに示された真理は、始まりも終わりもない真理そのものである。ここに、他のすべての真理は従属している。」